モデルルームに騙されるな

新築マンションを購入する際、必ず訪れるのがこのモデルルームです。
未完成なマンションを売るにあたってのプレゼンルームなのですが、購入者は受け身で臨むと痛い目を見ます。
モデルルーム見学における心構えと基礎知識を、こちらに記載いたします。

1. モデルルーム見学の目的とは

(1)購入者(みなさん)の目的

みなさんがモデルルームを訪問された際の目的はざっと下記のような感じと思います。

①新築マンションがどんな感じが知りたい
②目当ての物件の広さが知りたい
③目当ての物件のグレード感が知りたい
④目当ての物件の価格が知りたい
⑤目当ての物件が買えるのかどうかが知りたい

このうち、具体的にモデルルームの見学において期待されることは、
②目当ての物件の広さが知りたい
③目当ての物件のグレード感が知りたい
、の2点でしょう。

(2)売主の目的

売主の目的は、上記のみなさまの目的とは一致しません。
なぜならば、売主はあくまでマンションを「売ること」が最終目標だからです。従って、モデルルームも皆様に買ってもらうための一手段にすぎず、決して
②物件の広さを伝えよう、
③物件のグレード感を伝えよう、などとは思っていません。
売主がモデルルームに期待する効果・目的は下記の通りです。

❶ 検討者に気分を上げてもらい、マンションの購入意欲を高めること
❷ グレード感、空間の広さを、なるべく上質に感じてもらうこと
❸ 欠点を払拭すること

以下、詳細を記載します。

2. モデルルームは気分が高揚する

モデルルームは、気分が高揚するようにできています。
何故ならば、モデルルームを訪れる方々の多くはまだマンション購入を検討したての、購入意欲が高くない方々が殆どだからです。

普段は触れることのない憧れの家具の数々。お洒落なBGM。アロマの香り。
見学したお客様がまさに「憧れの暮らし」を想像し、期待に胸を膨らませられるような素敵な体験を用意することで、お客様の購入意欲をグッ!と高めるのがモデルルームの仕事です。
我々はそれを、「非現実感の提供」と呼びます。

この非現実感、憧れを体現するために、売主はモデルルーム1室につき数千万円もの費用を投下して、みなさまの来場を今か今かと待ち構えているのです。
高級物件ともなれば、数億円を投下してモデルルームを建築することもザラにあります。

キラキラしたモデルルームの世界を、楽しんではいけないというわけではありません。
「あくまで演出である」ということを、事前の心構えとしてしっかりと頭に入れておく必要があるということです。

3. モデルルームは実際より良く見えるように演出されている

「Pタイプ、70㎡」などと言って、さも再現であるかのように紹介を受けるモデルルーム。
再現なんてとんでもない。お化粧だらけで、原型がほぼないことが殆どです。

間取りの罠

本来の標準間取りから変更が加えられています。例えば3LDK・70㎡のところ、2LDKに間取り変更をして、リビングを10畳→16畳とし、非常に広く見えるように演出されています。

なぜそうするのか?答えは簡単。その方が気分が高揚するからです。
リビングの広さは、わかりやすくお部屋の印象に直結します。「広くて素敵〜!」という一言が出れば勝ちなのです。

確かに、メニュープランというオプション対応をすることで、その間取りに変更することは可能です。しかしながら、実際にモデルルームと同じ間取り変更を行う方は、全体の5%程度もいません。理由は簡単、2LDK・70㎡なんて現実的じゃないからです。子供部屋がありません。

殆どの方が実際に選びもしない間取りをあえて表現してでも、気分を高揚させる。これこそがまさに、「非現実感の提供」、「演出」のわかりやす事例です。

仕様の罠

モデルルームを見れば、グレード感(仕様)がわかるとお思いではないでしょうか。
いいえ、わかりません。
例えるならば、モデルルームは演出のため、フルメイクとフルドレスアップをした状態です。素肌なんて、爪の先にすら残っていません。

こうしたお化粧には「OPTION」シールと呼ばれるものが貼ってあり、「元の仕様とは異なりますよ」ということがわかるようになっています。(非常に小さいので、知らないとわかりませんが。)

(OPTIONシールの例)

ではこのオプションシール、どんなところに貼ってあるでしょうか?代表的な例を下記に記載します。


・壁紙(全般的に)
・床材(カーペットやタイル)
・天井照明(ダウンライト)
・キッチンの天板(大理石)
・キッチンの水栓金具
・キッチンの設備(コンロ・食洗機など)
・キッチン背面の食器棚
・洗面所の天板(大理石)
・ユニットバスの扉
・ユニットバスの水栓
…etc

つまり、殆どの場所にOPTIONシールが貼ってあります。
壁紙なんて、標準品を貼ってるモデルルームなんて殆どありません。タイルやカーペットもそう、標準品は真っ白な壁紙に、普通の木のフローリングなのですから、見栄えなんてしませんよね。必ず高級そうな和紙や木材が壁に貼られ、床はタイルやカーペットが敷かれています。高級そうに見えるキッチンの天板だって、オプションの可能性が高いです。天井でムーディな雰囲気を演出しているダウンライトもオプションです。

参考までに、築浅の中古マンションの写真を掲載しておきます。
これがいたって標準的な、新築マンションの本来の姿です。
高級物件でもさほど変わりません。


気になる物件のモデルルームの写真と見比べてみてください。
もはや原型がなくなっていることが、よくわかると思います。


モデルルームはオプションだらけなのです。

4. モデルルームは欠点を隠す工夫がされている

物件ごとに、必ずと言っていいほど欠点はあります。
欠点のない物件はほとんどありません。
お客様によってはそれを致命的に感じたり、全く欠点に感じなかったりしますから、きちんと内容を理解して判断できていればいいのだと思います。

しかしながら、売主はモデルルームの演出を使って、巧妙にこの欠点を隠します

事例1:鏡貼り

わかりやすいのは、鏡貼り。
やたらと鏡が貼ってあり、キラキラして見えるモデルルームが多いですが、それは見せたくないもの(大きな柱や大きな梁)を隠していることが多いです。実際にはクロス貼りで出てきますので、印象が随分と変わってきます。

事例2:狭さ

また例えば、3LDK・63㎡というすごく狭い部屋を売ることを考えましょう。
昨今では60㎡台後半の3LDKが随分増えてきましたが、一昔前までは70㎡が標準と言われており、60㎡台3LDKは昨今の価格高騰を隠すために台頭してきた狭小プランと言わざるを得ません。明治チョコレートのグラム数が少しづつ減っているのと同じ現象です。

この狭さを、売主はモデルルームで払拭します。

通常は横幅2.4mサイズのキッチンを2.2mに(20cm圧縮)
通常は1.4×1.8mサイズの浴室を1.3×1.7mに(10cmずつ圧縮)
通常は廊下に存在する共用収納を撤廃し…etc

といった形で、パッと見ではわからないよう、少しずつ色々なユニットサイズを小さくしていくことで、リビングや居室の面積を広く見せることが可能です。
モデルルームの見学程度ではこの差に気づかず、生活してみてようやく、「なんか収納が全然ないな?」「なんかお風呂で足が伸ばせないな?」などと言った狭さを感じることになります。

5. モデルルームプランと購入検討するプランは全くの別物

当たり前ですが、モデルルームのプランはあくまで1タイプか、せいぜい2タイプ程度しか展示されていないことでしょう。
しかしながら、100戸以上の大規模マンションともなれば、販売タイプは20タイプ以上にも及ぶことは良くあります。つまり、殆どの方が、モデルルームとは別のタイプを購入することになるわけです。

結局は図面をみて、間取りの良し悪しを自分で想像して判断しなければならない、ということになります。

6. では、どうすればいいのか?

時間をかけて見学をしましょう

触れるものは全て触り、動かせるものは全て動かしてください。
OPTIONシールを確認し、標準仕様が何かを正しく理解してください。

大切な買い物なのですから、冷静に、ひとつひとつ丁寧に確認するべきなのです。

さらっと30分程度で回るのではなく、1時間くらいかけてもいいと思います。営業マンにそれを断られる場合、不信感を持ってもいいです。ほとんどの場合は、ゆっくり見る時間を作ってくれるはずです。むしろ、真剣に検討しているお客様だと感じて、親身にすらなってくれることでしょう。

断っておきますが、売主も詐欺集団ではありません。きちんと見れば、情報はわかるようになっているはずです。わからなければ、聞けば必ず教えてくれます。

考えて見れば、なにも不動産に限ったことではありません。

「演出は演出」「現実は現実」と、正しく認識できる基礎能力が、現代の購入者には求められています。